見合いから市場へ — 60年で入れ替わった仕組みと、代替されなかった機能

日本の恋愛について語られることのほとんどは、いまが標準だという前提で始まります。自分で相手を見つけ、自分で選び、自分で口説く。それが当たり前のことだと。

当たり前ではありません。この仕組みは60年しか経っていません。

数字で見た移行

国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査が、この推移を追っています。

戦前の日本では、見合い結婚が約7割を占めていました。その後一貫して減少し、1960年代末に恋愛結婚と比率が逆転します。そして現在、見合い結婚は**数%**しかありません。

時期見合い結婚
戦前約70%
1960年代末恋愛結婚と逆転
現在数%

人間の営みとしては最も古い部類の行為について、その成立手段がたった60年で7割から数%まで入れ替わった。産業構造の変化としても急ですが、これは制度改革として行われたわけではありません。

誰も設計していません。都市化と、雇用の形と、家族の縮小の副産物として、勝手にそうなったというのが実際に近い。

何が入れ替わったのか

「見合いが減って恋愛が増えた」は、出来事の描写としては正しいけれど、中身を説明していません。中身は接続の方式が変わったということです。

割り当て制。 仲介者が地縁・職縁の内側で候補を持ち込み、当事者は探索も選別もほとんど行いません。「合う」かどうかの判定を、本人以外がやっていた。

市場。 候補の発見、選別、接近、交渉のすべてを当事者が行います。判定は本人がやる。

先に断っておきます。見合いに戻すべきという話ではありません。 見合いには当事者の意思を軽視する構造的な問題があり、それは戻す先として妥当ではない。廃止されたことに正当な理由がありました。

問題は別のところです。

代替されなかった機能

見合いという仕組みを機能として見ると、こういう装置でした。

自分では選び合わない人同士を接続する。

これは副作用ではなく、この装置の中心的な働きでした。当事者の選好が判定に入らないので、選好では出会わない組み合わせが成立していた。

そして市場に移行したとき、この機能の代替は作られませんでした。

市場は逆のことをします。選好を通すのが市場の仕事です。参加者が自分の好みで選ぶから、選好が集中する。人気のあるところに集まり、そうでないところには集まらない。これは市場の欠陥ではなく、市場の定義です。

割り当て制には、この偏りがありませんでした。だから移行によって、分布の形そのものが変わったわけです。

当事者に移ったコスト

もうひとつ移ったものがあります。探索と選別の費用です。

仲介者が候補を集め、経歴を確かめ、橋渡しをしていた。その作業は消えたわけではなく、当事者に移っただけです。

  • 候補を見つける
  • 相手の情報を確かめる
  • 接近する
  • 断られる可能性を引き受ける
  • 交渉する

これを全部自分でやる。しかも専門でもなく、頻度も低く、失敗から学習しにくい条件で。仲介者は多くの縁談を扱うから経験が蓄積しますが、当事者は生涯に数回しかやりません。

うまくいかないことが多いのは、能力の問題ではなく構造の問題として説明できます。

空白を埋めに来たもの

代替が公的に作られなかったので、民間が埋めました。マッチングサービスです。

ただしここに、指摘しておくべき利害があります。その多くはサブスクリプション課金であるということ。

課金モデルが月額であれば、収益は利用期間の長さに比例します。利用者が成立して離脱するのは、収益の終わりです。

これは陰謀の話ではありません。インセンティブの向きの話です。ある事業の収益が「探索が続くこと」に連動しているなら、その事業が探索の終了を最大化する設計を選ぶ理由は、構造的に弱い。見合いの仲介者は成立で報酬を受けていたので、向きが逆でした。

この点は別の記事で扱います。

だから何なのか

この記事の主張はひとつです。

いまの状況を、個人の努力不足として記述するのは間違っている。

60年前に接続の仕組みが割り当てから市場に変わり、そのとき失われた機能は補われず、探索の費用は当事者に移り、空白は成立を急がない収益モデルの民間サービスが埋めた。この条件の下で「うまくいっていない」のは、制度設計の帰結です。

そしてこの読みが正しいなら、データがそれを裏づけているはずです。実際、裏づけています。未婚男性の72.2%に交際相手がおらず、33.5%が交際そのものを望んでいません。

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出典: 国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」(第16回・2021年、および見合い結婚・恋愛結婚の推移に関する各回の集計)。

よくある質問

見合い結婚と恋愛結婚の比率はいつ逆転したのですか?
1960年代末です。戦前は見合い結婚が約7割を占めていましたが、その後一貫して減少し、1960年代末に恋愛結婚と比率が逆転しました。現在の見合い結婚は数%程度です。出典は国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査です。
見合いは何をしていた仕組みなのですか?
本人同士の選好によらずに接続を成立させる仕組みです。仲介者が地縁・職縁の内側で候補を持ち込み、当事者が探索も選別もほとんど行いませんでした。良し悪しの評価とは別に、機能として見れば「自分では選び合わない人同士を接続する」装置でした。
市場になると何が変わるのですか?
探索と選別のコストが当事者に移ります。仲介者が担っていた候補集めと橋渡しを、自分でやることになる。加えて市場では選好が集中するため、評価の分布が偏ります。割り当て制にはこの偏りがありませんでした。
では見合いに戻すべきという主張ですか?
違います。見合いには当事者の意思を軽視する構造的な問題があり、戻す先として妥当ではありません。ここで問題にしているのは、廃止したあとに機能の代替を用意しなかったことです。移行そのものではなく、移行の設計の不在が論点です。
代替を作ったのは誰ですか?
公的な制度ではなく、民間のマッチングサービスです。ただしその多くはサブスクリプション課金なので、利用者が成立して離脱するより、探索を続けるほうが収益になる構造を持っています。これは別の記事で扱います。